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どこに居たって川風の匂いがし、せせらぎの音がして。
川向こうから響く工場の終業のサイレンが、
子供らに“早く帰れ”と告げる音になったのはここ最近のこと。
時計なんかなくたって、川表(かわも)に射すお日様の傾きで、
どのくらいの時分かは大体なら判ってたもんさと。
じっちゃんが言ってたのも、今は昔のことなんだろけど。
時計なんか要らないのは、今も昔とそうは変わらないような…。
ゾロの家もルフィの家も、この土地に古くからある家系の末裔。
そんな言いようは今時には大仰が過ぎるかもしれないが、
ルフィの家は代々、
川の上流からやってくる荷船を捌く、回船業と人足を扱う商いとをしていたそうで。
ゾロの家は、川の流れを生かした水車を作り、
近在の農家に頼まれては米をついたり粉を輾(ひ)いたりを生業にしていたのだが。
いつのどの戦後にか、ならず者から食料や財を狙われたおり、
途轍もない凄腕の剣豪が通りすがりに助けてくださって。
その男っぷりに惚れてしまった一人娘のたっての願いもあってのこと、
彼を婿に迎えてこの地に開いたのが、今も健在の剣道道場。
なので、川から荷を揚げてた旧の船着き場から見ると粉屋さんでありながら、
村の子供らがやっとうを習いに通いもするという、
ちょっと不思議な取り合わせの家だったりもする。
今でも粉屋は続いており、但しそちらは今では機械での操業。
道場主との二束のワラジにしては、なかなかいい品なのが評判で、
麺類やら菓子業やらの関係者が遠くから仕入れにと訪れるほどと言うから、
当代の師範はそっちの方に向いているのかもしれない。
「ごっそーさまでしたっvv」
甘くてふわふかで美味しかったカップケーキをたらふく食べて、
「ああ、ほらほら。ルフィ、ちょっと待って。」
上唇の回りに牛乳の跡を白く残してたの、
くいなお姉さんに拭ってもらった、小さな腕白坊や。
ちょこっと強く擦られるのへ、むいむいとじたばたと暴れても、
剣道有段者のお姉さんにはさして響きはしなくって。そして、
「ゾロ、今日は父さん、川向こうに出掛けたから。
夕方からの年少組の稽古は、あんたが見てやってねってよ?」
そんな言葉を掛けられた弟さんが、
おうと、特に問題はなさそうに応じたのは。
彼もまた、正規の段こそ認定前ながら、
初段以上の実力を既に認められてもいるからで。
「したら、夕方までは遊べんだな?」
二人のやりとりへ にぱっと笑ったお陽様坊や。
うずうずしている足元が今にも駆け出しそうなのへ、
あららぁと くいなが苦笑をし、
「お腹が痛くなるから、いきなり駆け出すような遊びはやめときなさいね?」
おやつの直後なのだからと、一応は言ってやる。
それへと“おーvv”なんて腕を上げ、景気よく応じた坊やではあるが、
“どこまで覚えていられるやら。”
お説教が右から左なのはいつものことだし、
まま、ゾロがついているのだから、何かあっても大丈夫だろと。
面と向かうと小馬鹿にするも、
しっかり者の弟だという点だけは、ちゃんと認めているお姉さんだったりし。
“ましてや、ルフィが相手だしねぇvv”
行ってきますと勝手口から出て行った、
此処の他には濡れ縁のところにもちゃんと彼の突っかけがあるほど、
もはや家族同然なちびちゃい弟と、いが栗頭の小生意気な方の弟と。
付かず離れずで添いつつ遠ざかる、小さな二人を見送って、
「…っと。はいはい、あ、ナミ? え? 何なに、あの子が来るの?」
学校のお友達から掛かって来た携帯電話へ注意を取られ、
お喋りしながらお二階へと上がってく。
どこか間延びした空気が閑と流れる昼下がり。
庭先の白い土に伸びてた長い陰の先では、
今日明日にも仕舞われる、大きな川の覇者の勇姿がはたはたと、
川風を腹いっぱいに呑みつつ悠然と躍っているばかり。
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*しまった、ちょっと間が空き過ぎましたな。
ちょびっとずつ、
他の子ゾロルものともリンクしているような設定になってますが、
今のところは関係ありませんので悪しからずです。

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